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[orca-dev:00563] 著作権とライセンス(Re: Re: dbsについて(長文ご容赦))



生越です。

  一連の私の「噛みつき」は背景がわかってないと、「なんだ?」ってことに
なるので、ちょっと解説を。ということだけでは意味がないので、ソフトウェ
アの著作権についての話を少々。

  元々の話は、OPASの日レセアクセスクラスライブラリが、

> http://www.jxta.org/bios/shinji.html

  のプログラムに類似な部分があったらしいんで、「仁義切ってて欲しかった
なぁ」とあるところで小林氏が言ったことが、某氏の耳に入り、OPASの人達共々
「謝罪と反省しる!」という話になったということが発端です。

  個人的な感情として、「仁義切ってて欲しい」というのは理解しないではあ
りません。また、仁義を切るという行為は日本の社会では、「なんとなく必要」
とされていることでもあります。しかし、それを要求(と受け取られる発言を
する)ということになると、「ちょっと待った」と思うわけです。

  公開されている著作物(それは複製等を許可されていないものであっても、
人目に晒されているものであれば同じ)の場合、それを見た人は当然何らかの
影響を受けます。プログラムならロジックや変数名の類がなんとなく似てしま
うとか、同じになってしまうことはあります。また、独立に著作されてしまっ
たものでも、目的が同じものであれば、偶然似てしまうことは当然あります。
あるいは、元ネタの一部を取り込むという行為もあります。さらには、元ネタ
を発展させて別のものにするということもあります。

  ここで考えたいのは、「どこからどこまでがライセンスの条件であるか」
「ライセンスの条件の外の行為についてどう考えるか」です。

  著作物を公開する場合、そこには他人によってその著作物を見られるという
行為を許諾していることになります。見ること自体は、実は著作権の外側の行
為になります。著作権法は「複製、翻案、公衆送信」の類についての法律であっ
て、「使う」という行為についての法律ではありません。また、ライセンス契
約というのが原則的に著作権法上の行為が基本にある契約です。ですから、私
的に「見る」「使う」という行為については、規制することはありません(相
手が公衆となると別です)。

  公開された著作物を「引用」する場合、これは著作権上の「複製」あるいは
「翻案」という行為になります。ただし、この場合は量が少なければ「引用さ
れた著作物の割合が十分少ない」ということであって、特に制限は設けられて
いません。これも著作権法の外側であり、ライセンス契約に出て来ることでは
ありません。

  公開された著作物を改造したり頒布したりする行為は、著作権法上の行為に
なりますし、たいていのライセンス契約には「何が良くて何がいけないか」が
明記されています。これは素直にそれに従うべきですし、従わない場合には刑
事罰があります。オープンソースなものは往々にして軽んじられる傾向にあり
ますが、オープンソースなものをライセンスに反する扱いをしても、やはり刑
事罰の対象になります。

  個人的な行為でやって、不特定多数が絡まない場合は「私的行為」というこ
とになって、これも著作権法上の例外行為となって、著作権法は及びません。
合理的なライセンス契約でも、私的な行為について制限は与えていません。まぁ
あまり合理的でない契約もまかり通っていますし、契約自由の原則があります
から、第三者がとやかく言う性格のものでもないですが。

  さて、「見てしまったコードに何となく似てしまっている」場合。これは
「参考にした」という行為ですから、本来著作権法の制限する範囲ではありま
せん。見られもしない著作物が公開されることは、それ自体意味のないことで
すから、公開するということはつまりは「参考にしてね」という意味です。そ
れが嫌なら公開してはいけない。つまらん言いがかりをかけられて迷惑だから。

  コードをちょこっと引用した場合。これは「引用」と認められる量(比率)で
あれば、別にどうということはありません。これも著作権法の制限する行為で
はありません。クレジットがあると喜ばれるのは確かですが、なければないで
も構いません。「どれくらいだとクレジットが必要で、どれくらいだと正当な
引用の範囲を超えるか」ということは、あまり明確な指針がないのですが、心
掛けとしては「引用したとわかる量ならクレジットを入れよう」「あんまり酷
くなければ仁義なんて言うのはやめよう」というように考えておくのが良いよ
うに思います。

  これ以上の行為は著作権法の管轄になりますし、ライセンス契約の対象です。
ライセンスにはよく目を通しておきましょう。まぁ最近はクレジットを要求す
るタイプのライセンス(宣伝条項付きBSDライセンス等)はあまり流行らず、ク
レジットを要求しないタイプのものに移行されつつあります。

  さて、元々「オープンソースライセンス」というのは、この手のことをうる
さく言うことを避けるためのライセンスです。「宣伝条項付きライセンス」に
しても、「宣伝しといてね」という要求でしかなく、「仁義切ってから使えよ」
という類ではありません。本来著作権法の管轄になる行為を行う場合は、「ど
こまでやって良いか」が明記してあるか、なかった場合には仁義を切るのが基
本です。でも、その手の面倒なプロトコルを避けたいというのが、オープンソー
スライセンスの精神です。ですから、「仁義を切る」という行為は、すること
もされることを求めることも、「なんか勘違いしている」行為なのです。

  オープンソースライセンスのものにはライセンス守る限り「仁義」はいりま
せん。またプロプライエタリなライセンスであっても、人目にさらされている
場合には、参考にされることに文句を言うことはできません。どうしても参考
にさえして欲しくない場合なら(そんなこともあるでしょう)、人目にさらすよ
うなことはしないのが良いと思います。無意識に「汚染」されるというのは、
有害伝染病の放置と同じですから。

  マイクロソフトでさえも、参考用にリリースしているコードについては「そ
のままコピーは勘弁だけど、これを参考にしたりパクったりするのは大いに結
構。どしどしやってね」というライセンスにしているのです。いわんや、オー
プンソースがどうとかと言っている人なら、「仁義」などというものは考える
べきではありません。

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